2025.06.11
施設職員による虐待から家族を守る方法とは
2025.06.11
介護施設で起きる職員による入居者への虐待事件に触れると「親を施設に預けて大丈夫なのか?」と不安を抱く人もいると思います。今回は、施設職員による虐待の現状と虐待が起きる原因や国の防止施策を解説した上で、私たち一人ひとりができることをお伝えしていきたいと思います。
●施設内虐待の現状
国が行っている高齢者虐待に関する調査(※令和5年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果)によれば、令和5年度の施設職員による虐待件数は1,123件となっています(参考:同調査の家族・親族による虐待件数は17,100件)。
【介護職員による虐待の種類(複数該当)※】
「暴力的行為や身体拘束などの身体的虐待」51.3%
「威嚇的・侮辱的な発言や態度などの心理的虐待」24.3%
「介護放棄22.3%、経済的虐待」18.2%
●虐待が起きる要因
【介護職員による虐待の発生要因(複数該当)※】
「職員の虐待や権利擁護、身体拘束に関する知識・意識の不足」77.2%
「職員のストレス・感情コントロール」 67.9%
「職員の倫理観・理念の欠如 」66.8%
「職員の性格や資質の問題」 66.7%
私も介護施設の勤務時に、虐待の加害者になるリスクを感じる瞬間がありました。認知症による不安症状から、攻撃的発言や行動を浴びせられると、自身の感情が荒立つこともあります。それでも、事前に学んでいた知識や対応策により防ぐことが可能でした。
一方で介護施設によっては過度な人材不足が常態化するなど、自身が虐待加害者になる可能性や感情が高まったときの対応策について学ぶ機会が得られず、加害者になってしまうケースもあるのだろうと考えています。
●虐待防止の施策について
介護施設には、必ず虐待防止マニュアルを備えておかなければなりません。しかし、マニュアルがあっても活用されていないことが課題となっていました。令和6年からは介護施設に求められる虐待防止に関する義務が強化され、虐待防止委員会の定期開催、年2回の虐待防止研修の実施、虐待防止の担当者の専任などの取り組みが要件に加えられました。
●施設内虐待の防止に必要なこと
施設職員による虐待の防止に必要なのは「施設内での高齢者虐待は起きる可能性が高いもの」という前提を持ち、繰り返し対策を取り続けることです。介護職は、一人ひとりの人生の大事な最終局面に関わることができる、非常にやりがいのある仕事です。私も懸命に介護していたご家族の「あなたに出会えて本当に良かった」という言葉に、改めて介護職になって良かったと心から思いました。
ただ介護職は過度なストレスにさらされることが多く、それが密室で起きた時に虐待リスクが高まります。介護施設では、そういった場面が発生する可能性が高く、普段から繰り返しの取り組みが必要不可欠です。虐待防止マニュアルの冊子を読み合わせるだけでなく、外部講師による研修、業務中に抱えたストレスを打ち明け合う場づくり、ストレスがかかりやすい業務の洗い出しと改善などの対策を繰り返すことで、虐待防止となるだけでなく、職場同士の信頼関係づくりや介護職の離職防止につながっていきます。
●施設を選ぶ私たちができること
虐待防止に熱心な施設を選び出すには、普段から家族の介護に余裕を持った関わりをすることが必要です。施設職員による虐待のニュースを目にして「介護施設は信用できないから、家族だけで介護しなければ」と、より抱え込むかもしれません。しかし「もう限界だ…」となってから「どこでもいいから早く入れるところを」となれば、施設の質を精査することなく「キレイで新しい施設だから」という理由だけで選ぶことになるでしょう。残念ながら「キレイで新しい施設」でも虐待は起こり得ます。当法人が発信している「よりよい老人ホームの選び方5か条」に、もう1つ「虐待防止の取り組みについて独自に工夫されていることはありますか?」と質問を加えてください。この質問にしっかり答えてくれる施設を選ぶことで、虐待を受けるリスクをかなり低減することができます。