2021.10.20

施設に入所する家族との面会制限をどう考えるか

2021.10.20

施設に入所する家族との面会制限をどう考えるか

 企業での個別介護相談で、家族が老人ホームなどの施設に入所されている方から、「コロナ禍の面会制限で家族になかなか会えず、生活の様子が分からず不安」という相談が増えております。そこで、いつまで続くか分からない面会制限をどう考えるべきなのでしょうか。

●いつまで続くか分からない面会制限
 新型コロナウイルスのワクチン接種は、施設の入所者やスタッフに対して優先的に行われております。さらに、自身もすでに2回目の接種を終えていれば、「入居している家族のためにも、できるだけ多く面会したい」と考える方もいらっしゃるかもしれません。
 一方で、ワクチン接種はあくまでも任意であり、アレルギーや疾患の事情で施設に関わるすべての人がワクチンを接種しているとは限りません。そのため、タブレット端末を活用したオンライン面会、ガラスや窓越しでの面会などの対応は、しばらく続くことが推測されます。

●入所中の家族と面会できない不安
家族としての罪悪感によって「入所している家族のために、できるだけたくさん面会してあげたいのに…」といった不安を抱えることは十分理解できますが、私の経験から振り返ると、たくさんの面会が必ずしも入所されている方の支援となっているわけではありませんでした。

●面会にまつわる様々なケース
私が目の当たりにしたいくつかのケースをご紹介します。少し極端なケースかもしれませんが、入所されている方にとっての面会の意味や、その効果を理解いただくために参考になるかと思います。

【毎日面会に来て食事介助をする娘さん】
母親の夕食の介助のために、仕事帰りに毎日面会に来る娘さんがいました。仕事で疲れていることに加え、帰ってからも子供たちの食事作りがあるため、娘さんのペースで進む少し強引な食事介助。それを不快に思ったのか、また、疲れた娘の姿を見かねたのか、母親から「もう来なくていい!」と、面会を拒否されてしまったのです。娘さんは「こんなに頑張って毎日面会に来ているのに、どうして…」と、涙ながらに嘆いていました。

【1年に1回しか面会に来ない娘さん】
 海外で仕事をしている娘さんは、1年に1回しか母親と面会することができません。母親も「なんであなたはもっと面会に来ないのか?」と言いながらも、嬉しそうな表情で会話を楽しみ、娘さんも1年に1回のことなので、母親からの「もっと面会に来なさい」という、厳しいお叱りも上手く受け流していました。娘さんが帰ると、母親は少し寂しい表情をしながら、やはり上機嫌で「どれだけ気立ての良い娘か」の自慢話をされ、とても印象的な場面でした。

【ネタ帳を持参される息子さんと、2分で帰っていく息子さん】
 「認知症が進まないように、話しかけなくては!」と会話のネタ帳を作り、毎日面会に来る息子さんがいました。「息子が来るとうるさくて疲れる」と入所している父親は私たちスタッフに愚痴こぼし、そのうちに父親は「会いたくない」と言い出すようになってしまいました。
 一方で、週に1度ほど笑顔で「元気?」とひと声掛けて、颯爽と帰っていく息子さんがいました。時間にして、おおよそ2分。時間は短いかもしれませんが、声を掛けられた父親も「元気だよ!」と笑顔で答えていました。

このように入居されている方の表情から、面会は“量”ではなく、“質”だということを学びました。たとえ認知症や寝たきりでも、贖罪の意識や家族としての義務感が表情や声色に少しでも現れていれば、入居されている方は自然と見抜いてしまうのだと思います。

●本当に面会制限は悪いことだけなのか?
 私はコロナ禍でなかなか面会ができない時だからこそ、「会ったときは自然と良い時間を過ごそう!」と、“量”よりも“質”が求められる“心の余裕”を作る機会になると考えています。面会する側に心の余裕があれば、たとえ少ない頻度で短い時間であっても、施設スタッフでは提供できない家族だからこそできる、質の高い面会となります。