2022.05.18

親のために近所でテレワークが危険な理由

2022.05.18

親のために近所でテレワークが危険な理由

 コロナ禍の影響からテレワークが推奨されるようになりました。これを機会に「同居は難しいが、何かあったときにすぐ駆け付けられるように実家の近くに転居してテレワーク」と考える方が増えています。そこで、テレワークをしながらの介護の実態をお伝えさせていただきます。

●両親が暮らす実家の近くに転居
 Aさんには、実家で暮らす70代後半で物忘れがある父親と、そのサポートをする母親がいます。帰省時にきょうだい間で「そろそろ、誰かが実家近くに住む必要があるのでは?」という話題になりました。近所の叔父も「お前が助けてやってくれ」と言います。実家から会社は2時間半の距離ですが、出勤が月に数回のテレワークならば、Aさんは親の面倒を見ることができると考えました。結果、父親との関係が良くないため、同居ではなく近くに転居したのです。

●近所で程よく見守るはずが…
 徒歩5分の近所に転居し、買い物や父親の話し相手と散歩の付き添いをしていました。最初はやりがいを感じるも、そのうち「自分たちで買い物に行ってくれよ」「何度も同じ話で聞くのも疲れたよ」と負担を感じるようになりました。それでも、叔父やきょうだいのプレッシャー、近所に転居したので両親宅へ行かない選択はできませんでした。
そこで、介護ヘルパーやデイサービスで負担を軽減しようと、母親に相談するも「お父さんは知らない人がいるところに行くのは嫌がるだろうし、かわいそう。私も他人が家に来るのは嫌」と拒否されました。
半年後、母親から「お父さんがいなくなった」「お風呂から出られなくなった」など、昼夜問わず電話がかかってくるため、仕事にも影響が出てきました。それでも母親は介護サービスの利用を拒み続け、Aさんはストレスと寝不足で体調を崩し休職を余儀なくされてしまいました。

●日常的な見守りとテレワークは相性が悪い
 コロナ禍で、Aさんのようなケースが急増しています。「仕事と介護の両立にテレワークが有効」という考え方は、どうやら改める必要があるようです。
ケアマネジャーや主治医との打ち合わせ、老人ホームの見学、看取りなど、ピンポイントの対応にテレワークは有効です。ただ、日常的な見守りのためにテレワークを活用すると、親の依存を引き出し、「子どもがサポートしてくれるから」と親が介護サービスの利用を拒否することにもつながります。

●無理なく仕事と介護を両立するために
 Aさんのように直接サポートするのではなく、家族の介護疲れや日々起きているトラブルを、公的支援機関である地域包括支援センターに電話で伝え続けることが重要です。緊急度によっては、地域包括支援センターの職員が実家を繰り返し訪問し、信頼関係を作った上で介護サービスの導入をはかり、介護サービスの利用につなげてくれます。このような心構えがないと、Aさんのように冷静な判断ができず、日々の介護に巻き込まれ、抜け出せなくなってしまうのです。

●親が元気なうちから介護相談
 いざとなったときに慌てないためにも、親が元気なうちから将来の介護に向けて、どのようなリスクがあるのか、どのような心構えをしておくべきか、親の住む地域の地域包括支援センターに電話で相談をしておきましょう。