2023.09.27

老々介護の末に起きた事件を防ぐ方法とは

2023.09.27

老々介護の末に起きた事件を防ぐ方法とは

 神奈川県大磯町で、40年間の介護の末に岸壁から車いすごと突き落とし、妻を殺害した事件の判決が出ました(参考:「悪質で介護疲れと同視できない」 大磯・車椅子の妻殺害で実刑 )。
なぜ、このような事件が繰り返されてしまうのか、どうしたら防ぐことが出来るのか、日々の介護相談の経験から解説させていただきます。

●男性が家族を介護する時のリスク
 男性が介護する場面、虐待や殺人に至るケースが多いことが報告されています。現在、主に介護している方の男女比は男性が35%(令和5年版高齢社会白書)ですが、虐待加害者は男性が61.7%となっています(令和3年度高齢者虐待防止法に基づく調査結果  当資料のP14)。

男性が介護をすると困難を抱えやすい理由について、「男性介護者と支援者の全国ネットワーク」を立ち上げた立命館大学の津止正敏先生が下記のように指摘しています。

・家事スキルのトレーニングの機会が乏しい
・地域のコミュニティと縁遠い
・過剰な家族的責任を呼び込む
・弱音を吐かず、誰にも頼らず、一人で抱え込む
・目標設定してひたすら成果を追い求める

●事件の加害者が辿った経緯とは
推測ではありますが、今回の事件の加害者は、以下のような経過を辿ってしまったのではないでしょうか。
1、 家族としてできる限り面倒を見なければ、と介護する
2、 直接介護をすることに、他では得られないやりがいを感じる
3、 介護サービスは、自身が行う介護の補助として利用する
4、 家族の介護そのものが自身の居場所となり、心身の疲れに気付けなくなる
5、 自身で介護が続けられなくなり、居場所を失うことに絶望する

●介護する方が孤立する構造的問題
私としては「1、家族としてできる限り面倒を見なければ、と介護する」の時点で、家族や近所が地域包括支援センターに相談し、その後も介護の様子を伝え続けていれば、十分に防ぐことが出来たのではと考えております。

要介護の家族の体調や介護方法についてのやり取りをしていても、介護する側の心情を相談することは殆どありません。現在の介護保険制度は、介護が必要な方への支援が目的であるため、要介護者がいない場で介護する家族がゆっくり心情を話す場が殆どないのです。

介護者の会は、介護で忙しく頑張っている人ほど参加しません。ケアマネジャーも、介護する家族だけと話す場を設定するのは、虐待が疑われるなどのよほどの状況に限られています。私も地域で介護の仕事をしていたときは、家族とだけじっくり話しをする機会は殆どありませんでした。

●事件を防ぐのは離れて暮らす家族の行動
こういった構造的問題から、家族の辛い心情が抱え込まれたまま放置されてしまうのです。だからこそ、離れて暮らす家族が行動に移すべきです。なぜなら、介護を抱えている当人ではSOSを出す力すら失われているからです。
 ケアマネジャーの連絡先が分からない場合は、地域包括支援センターに住所と名前を伝えることで、サポート方法を検討してもらえます。「要介護者が住む地域の住所+地域包括支援センター」で検索すれば連絡先を調べることが出来ます。地域包括支援センターには情報元を秘匿する義務が課せられているので「息子さんから聞きました」と言わずに、支援方法を検討してくれますのでご安心ください。
 関係性が強い家庭や責任感の強い方こそ「家族としてできる限り面倒を見なければ」と考えがちです。頭が下がるような生活を送っている真面目な方が、事件を引き起こすリスクが高いとも言えるのです。