2024.01.10

国の新たな施策から考える、認知症と仕事の両立

2024.01.10

国の新たな施策から考える、認知症と仕事の両立

 2023年6月に認知症基本法が制定され、9月からは岸田首相が議長となり『認知症と向き合う「幸齢社会」実現会議』が毎月開催され、認知症介護に関わる家族支援も重要なテーマとなっています。そこで、今回は家族を介護している方(以下、家族介護者)の支援の現状と、その解決策についてお伝えしたいと思います。

●専業主婦を対象とした家族支援の限界

 多くの方が実感している通り、この40年で共働き世帯が当たり前の社会になりました。以前は専業主婦が家族介護の主な担い手で、家族介護者への支援は各地域で当事者が集まって交流を持つ「介護者の会」が主流でした。ただ、この支援は専業主婦の減少により届きにくくなってしまいました。そこで、新たな家族介護者支援策として取り組まれているのが、「介護離職ゼロ」を目指した仕事と介護の両立支援策です。先述の国の会議でも議題の1つに上がっています。

 団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となる日本の人口構造に加えて、65歳以上の認知症の有病率が上がるという推計があります(65歳以上の認知症患者の推定者と推定有病率)。この推計によれば、2025年には5人に1人が認知症だと予想されています。
 少ない人数で多くの認知症高齢者を支えなければならない現実の中で、私たち一人ひとりができるのは、これまでの価値観に縛られず、仕事をしながら認知症の家族と無理なく向き合う方法を知ることだと考えています。

●認知症の人の問題行動は本人にかかるストレスが要因に

 認知症とは、後天的な脳の器質的変化により、いったん正常に発達した知能が低下した状態をいいます。認知症で最も多いのはアルツハイマー型認知症ですが、そのほかにも脳血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭葉側頭葉型認知症など、100種類ほどの類型があります。

 認知症は脳の器質的変化が伴いますが、上記の図のように、本人にかかるストレスが掛け合わされた結果として、徘徊、排泄の失敗、物盗られ妄想、暴言・暴力などの周囲を困らせる症状が出てきます。器質的変化がある程度あっても、本人にかかるストレスが軽減されることで穏やかに過ごされている方がいらっしゃいます。
 逆にMRIなどで脳の器質的変化(委縮)はそこまで見られなくても、本人にかかるストレスが強いと激しい行動に出てしまう方もいらっしゃいます。そのストレスのほとんどは、身近なご家族が良かれと思った声掛けやサポートが原因になっているようです。

●仕事しながら認知症家族と無理なく向き合う方法とは
 働きながら介護をする方々の相談に応じてきて分かったことは、仕事をこれまで通り継続し適度な距離をとることが、結果として認知症の方のストレス軽減につながるということです。介護家族の役割を、そばにいて生活全般のサポートをするということから、生活の変化を周囲の支援者(地域包括支援センターやケアマネジャー)に伝える、に切り替えることが重要です。
 認知症の家族と関わる中で重要なことは、自身の不安を解消するための行動なのか、本人のための支援なのか、冷静に見極める余裕を持ち続けることです。認知症の本人が外部サポートとつながることができるよう、現状の発信を継続して見守ることが重要です。
 国が認知症基本法を制定して動き出したこの機会に、当法人としても様々な提言をしていく予定としています。その結果をこちらのブログを含めて発信してまいります。