2024.06.05

仕事と介護の両立のために“絶対にやってはいけない介護”とは【前編】

2024.06.05

仕事と介護の両立のために“絶対にやってはいけない介護”とは【前編】

 久しぶりに帰省で、以前とは明らかに違う親の様子を目の当たりにして「早急に対応策を取らなければ」と、やみくもに動き始める方がいらっしゃいます。ただ、ここで誤った対応をすると、仕事と介護の両立が困難な状況に追い込まれてしまう可能性が高いのです。そこで、失敗事例とともに5つの“絶対にやってはいけない介護”を【前編】と【後編】に分けてお伝えします。

●その1:見守り・介護をきっかけとした同居
 久しぶりの帰省で汚れた実家を見て「なんで片付けないの?」「ボケ始めているのか?」と不安な気持ちになる人もいるかもしれません。そこで自身の家に呼び寄せたとしても、親自身は「早く家に帰りたい」と繰り返し訴えてきます。

 親の変化を目の当たりにしての同居は、ほぼ上手くいきません。生活を共にしていると互いの嫌なところが見えるようになり、衝突を繰り返すことになります。できないことが増えていく親に優しい声をかけることは困難で、ケンカが繰り返されれば、良い生活環境とは言えません。できないことが増えていくことは年を取れば当然のこと、と受け入れられる距離感を維持することが重要です。親が一人暮らしで物忘れが目立ってきても、親戚や本人が同居を求めてきても、冷静な判断をする必要があります。

●その2:日常的に家族が直接介護に関わる
 介護は日常生活の延長線上にあるため、お米など重い日用品の買い物や廊下を歩く時の支えなど、ちょっとした手伝いが介護の入り口になることがあります。これを続けていくと、老いた親は家族にやってもらうことが当たり前となり、自分で工夫してやろうとする意識と機会を失います。

お米の宅配サービス、廊下に手すりを設置するために介護保険申請を家族から提案されても「そんなものは必要ない」と言えてしまうのは、親本人が困っていないからです。家族が直接の介護に関わると、「自分でやろうとしない>家族のサポートに依存する>外部のサポートを拒否する>身体が弱り自分でできることが減る」といった負の連鎖に陥ってしまいます。

介護は、時に仕事以上のやりがいや周囲からの称賛を得られることがあります。一方で、介護を家族で抱え込むと、適切な外部サポートが得られず、共倒れのリスクが高まります。介護職であっても、親の介護は難しいと言われるように、直接介護にはできるだけ関わらない姿勢を維持することは、いつまで続くかわからない介護を乗り切る重要なポイントとなります。

●その3:テレワークを活用した仕事と介護の両立
 コロナ禍によりテレワークという働き方が浸透したことで、仕事と介護の両立にテレワークを活用しようと考えるのは自然な流れです。一方で、2022年の「就業構造基本調査」によれば、直近1年の介護離職者は10万6,000人となっており、2017年と比べると7,000人増の結果となりました。

私が企業で行う介護の個別相談で、テレワークをしながらの介護の当事者の話を伺うと「ウェブ会議に乱入される」「仕事モードに切り替えられない」といった実態が浮き彫りになりました。調査結果や現場の実態からも、仕事と介護の両立にテレワークは有効でない、と言わざるを得ない状況と考えています。

仕事の生産性を落としてまで行うテレワークが、「その2:日常的に家族が直接介護に関わる」でも解説した通り、親の生活の質を落とすきっかけにもなります。親が老いてできないことが増えていく不安は、テレワークで見守ったとしても解消されません。むしろ、できなくなっていく親の姿を直視することで、さらに不安が強くなります。年齢を重ねてできなくなることが増えていくのは当然のことと受け入れて、距離感を持ってみまもっていくことが重要です。