2025.07.30
家族の老いをどう受け入れていくのか
2025.07.30
親の健康に衰えを感じた時、ショックを受ける方が少なくありません。いつまでも元気だと思っていたのに「病気ではないか?」「もうすぐ介護が必要になるかもしれない」と想像して、心配や不安が湧き上がってくるかもしれません。誰もが向き合わなければならない「親の老いを受け入れること」について、事例も交え、どのように受け入れていけばいいのかお伝えします。
●長生きの心構え
世界に先駆けて、日本の平均寿命は100歳に近づき、100歳を超えて生きる「百寿者」が増え続けています。私たち日本人は、「いつまでも健康で長生きをすることが大切」と教えられてきました。
健康であることが長生きの秘訣でもあり、誰もが健やかに最期の時を迎え旅立ちたいと願いますが、長生きすればするほど肉体的な老いは進んでいきます。長生きすることは、「病とともに生きること」でもあるのです。
「老いていく身体」を受け入れて最期の日まで過ごしていくのか、一人ひとりが考えて決めていかなければなりません。支える家族も、老いていく家族とどう向き合っていくのかが大切になってきます。
●老いの受け入れが必要な事例
Aさんの父親は会社の重役として定年まで精力的に働き、母親は専業主婦として父を支えてきました。Aさんにとって父親は、威厳があり尊敬できる存在でした。
そんな父親が自宅で転んだと母親から連絡があり心配になったAさんは、半年ぶりに帰省をしました。母親から「トイレの失敗をするようになった」「今まで簡単に出来ていたことができなくなってきた」と聞きショックを受けたAさん。母親はそんな父親の変化にイライラしているようでした。
父親がなにかを失敗するたびに、母親は強い口調で責めてしまい自己嫌悪に陥って辛そうです。父親も塞ぎ込んでいて、Aさんはどうしたらよいか分からなくなってしまいました。
●家族以外からのサポートを受ける
Aさんの父親のように一家の大黒柱として威厳のある存在だった人こそ、衰えを感じると本人も周囲もその変化の受け入れに時間がかかる傾向があります。Aさんの母親の場合、父親が出来なくなったことに対して、手助けをしすぎて負担がかかってしまっているようです。
母親はAさんと同じようにショックも受けていて、頭では分かっていても父親の変化に悲しさや不安から苛立っている状態です。父親も自分の変化に折り合いをつけようと考えていたとしても、失敗したことに対して責められ続けると気力をなくしてしまいます。
こういった状況が長く続く前に、家族以外からのサポートを受けることをお勧めします。例えばデイサービスに通うことで、母親は自分の時間を持つことができ、心に余裕が生まれます。そうなると、お互いが心地よくいられる方法を考えられるかもしれません。父親も同世代と話すことや母親と離れて過ごす時間を持つことで、新しい気づきがあるかもしれません。
支える側(今回は母親)が家族以外のサポートを受け入れない場合もあります。そんな時は、家族だけで母親を説得するのではなく、地域包括支援センターにご相談ください。家族間だけで解決をしようとすると、共倒れのリスクも高まるので「まずは相談」と覚えておいてください。
●老いを受け入れて良好な関係を保つ距離
身体が思うように動かなくなり、出来なくなることが増えるからこそ、残りの人生を見つめ直すことに繋がります。家族以外のサポートを受け入れることは、「老いていく身体」と冷静に向き合う方法のひとつなのだと思います。
親の老いをきっかけに、自分の将来や人生観を考える機会にもなります。未来を想像することで、今の課題も見えてくるでしょう。また、家族関係というのは、距離が近いために上手くいかない原因を生むことがあります。俯瞰して冷静に考えられる距離を保つことで、最期の日まで良好な家族関係を維持できるのだと考えています。