2025.08.06
介護離職者の傾向とは?調査データと実例から見えた意外な真実
2025.08.06
超少子高齢社会となり、「介護離職」が深刻な社会問題となっています。労働力人口が減少するなか、年間約10万人が介護離職しており、その経済的損失は2030年には9.2兆円にのぼるとも試算されています。今回は、厚生労働省が実施した調査結果を基に、介護離職者の特徴や傾向、そして私たちができる心構えについて、実例を通して考えていきます。
●予想を覆した調査結果
『令和5年度 介護離職者の離職理由の詳細等の調査』より、意外な傾向が明らかになりました。
【介護離職者に見られる特徴】
・ケアマネジャーや地域包括支援センターへの相談が多い
・自主的に介護に関する情報収集をしている
・両立支援制度について職場から情報提供を受けている
これらは、「仕事と介護を両立できている人の特徴」と考えられていました。しかし実際は、“こうした行動をしていた人ほど離職していた”のです。
一方で予想通りだったのは、
・自分の生活を大切にする意識が低い
・自分の手で直接介護をしようとする意識が高い
という傾向です。
どれだけ制度を知り、相談・情報収集しても、「介護は自分がやらなければ」という思いが強い人ほど離職してしまうという結果でした。
●懸命に努力したAさん
Aさんには、脳梗塞で父親が逝去したあとも、遠く離れた郷里で一人暮らしをする70代後半の母親いました。
数年前から母親の受け答えがおぼつかなくなり、夜一人で出かけて警察に保護されたときは片道3時間の距離を駆け付けたAさん。管理職だったAさんは、自身で仕事時間を調整が可能でしたが、大切な会議に出席できないことが増え「これ以上迷惑はかけられない」と、実家から通勤できる営業所で休みの取りやすいサポートの部署に異動し、家族と離れて単身赴任介護をスタートしました。
●介護離職を防ぐためにケアマネジャーに相談
Aさんは年金が少ない母親や、高校生の子どものためにも、介護離職だけは防がなければなりませんでした。母親の見守りを増やすために、要介護1の認定を受けて週2日のデイサービスを利用しても、母親が一人でいる時間が心配なため、ケアマネジャーへ「もっと見守りの目を増やせないか」と相談。しかし「介護保険でできるのはここまでです」と言われてしまいました。
そこで、Aさんはインターネットや役所が配布する冊子などで介護保険制度を調べ上げ「小規模多機能型居宅介護」というサービスならば、毎日デイサービスが利用でき、時には宿泊も可能できることがわかりました。しかし、「小規模多機能型居宅介護」はどこもいっぱいで利用が難しい状況でした。
●会社の制度もフル活用した結果、介護離職を選択
会社に相談しても、休暇・休業は無給であることから利用が難しく、フレックス・短時間勤務やテレワークを組み合わせても、どうしても母親が一人になってしまう時間帯がありました。
懸命に努力してきたAさんですが、母親がデイサービスを拒否して遅刻する、夜間も母親のトイレに付き添って安眠できない、という状況が続きました。そのうちに介護疲れから仕事のミスが続くと、「これが自分の実力なのか…」と落ち込むことが増えました。
そんなときに会社が早期退職者の募集を開始。疲れ果てて仕事にもやりがいを持てなくなっていたAさんは「今は介護に専念」「割り増しした退職金で食いつないでいこう」と、退職を決意しました。
●両立した方がよりよい介護となる理由
Aさんはケアマネジャーにも相談して、できる限り介護サービスを利用。自身でも介護保険制度を調べて使えるサービスを探し、会社からも両立につながる制度の情報を得ていました。それでも介護離職に至ったのは、自分のキャリアや家族といった自身の生活より、できる限り自らの手で介護しなければ、という意識が原因だったのかもしれません。
また母親の介護で、いつの間にか自身の生活バランスが崩れて苦しくなり、介護に直接関わることで苦しみから脱しようとしました。しかし、どんなに頑張って支えても母親の介護状態は進行していくため、さらに苦しみが増していくことになりました。
調査結果が示すとおり、介護離職を防止するためには相談や情報収集とともに、自身の生活を大切にして直接介護を控えるという、介護に対する意識を変える必要があります。これは、穏やかで継続性がある良き介護体制を作るためにも、必要不可欠な意識であると考えます。まずは自身の生活を大切にして、支える側が心身ともに健康であれば、親がいかなる介護状態となっても穏やかに関わること、これが実現可能性のある仕事と介護の両立だと考えています。