2025.11.12

介護に至る前に親子関係を整理する必要性

2025.11.12

介護に至る前に親子関係を整理する必要性

 離れて暮らす親の記憶力や体力の低下を感じると、近い将来介護が始まるのではないかと不安になる方もいるかもしれません。では、介護が必要になる前にすべき準備とは何でしょうか。
今話題の『介護未満の父に起きたこと』(新潮新書)の著者で、ラジオパーソナリティでもあるコラムニストのジェーン・スーさんとの対談も交え、今回は本格的な親の介護に入る前の「介護未満」の段階で、どのように親子関係を整理すればよいかをお伝えします。

●親との距離感
 ひとり娘であるジェーン・スーさんが、一人暮らしの80代の父親との奮闘を綴った『介護未満の父に起きたこと』を上梓されました。それに伴い、私自身が2022年に山中浩之さんと共著した『親不孝介護 距離を取るからうまくいく』(日経BP)を発刊していたことをきっかけに、ESSE onlineにて、『介護未満の不安』について対談する機会をいただきました(記事の一部は、こちらのWebでもご覧いただけます)。
ジェーン・スーさんは父親のケアをビジネスライクに考え、親子で取り組むプロジェクトとしてサポートしてきました。電話をすることはあっても、日々のケアはアウトソーシングし、父親の家に行くことはほとんどないそうです。スーさんは若い頃に父親との軋轢を感じる経験をしており、接点を増やすことがお互いのためにならないと知っているため、互いの距離感や生き方に線引きをしています。『介護が始まった途端に親子関係が悪くなった』と感じる場合、もともとの親子関係を度外視し、一気に距離を詰めすぎたことが原因であることが殆どです。

●「介護未満」の心構え
 親にできないことが増えていくのを、間近で見続けるのは辛いものです。それでも、老いを止めることは誰にもできません。ジェーン・スーさんはある時、父親の荒れた部屋を見て愕然としたそうです。生活能力を失いつつある父親に対し、この事態を建設的に対応する方法はないかとビジネス書を読み込み、父親の生活を立て直すノートを作成しました。
また、父親を大物アーティストの“ミック・ジャガー”になぞらえ、「自分は大物アーティストのイベンターとして、あくまでも気持ちよくステージに立ってもらうことが私の仕事。相手は世界的なビッグアーティストで、気まぐれであり理不尽な態度を取ることもあったとしても腹を立てない。あくまでも自分は裏方であり、ビジネスライクに接する」と考えていたそうです。
親との関わりにおいて、ジェーン・スーさんのように互いが穏やかでいられるよう、捉え方を工夫することは非常に有効です。このような捉え方ができるのは、『自分と親の人生は別のもの』というスタンスが必要不可欠です。直接の介護にハマってしまう前に、改めて親との距離感や境界線を意識しておくことが重要です。

●良好な関係を保つには
 ジェーン・スーさんは、「根本的な問題解決は目指さず、当面うまくいくことを目標に」父親と関わっています。「親の介護は子どもが担うもの」「親のために頑張るもの」と自分の生活を犠牲にする関わり方はお勧めできません。親のケアを頑張るほど、余裕を失い乱暴な関わりになってしまうことで、むしろ後悔が強くなるケースもあります。まず自分の人生を大切にしたうえで、今の自分に何ができるかを考えることが、親の人生を尊重することにつながります。他者に介入してもらうことで罪悪感を抱くこともあるかもしれません。それでも、介護未満の時期から家族以外の公的機関である地域包括支援センターに相談しておくことが重要です。
親の老いをきっかけに、自分のこれからや人生観を考える機会にもなります。俯瞰して冷静に考えられる余裕を持ち、親との適切な距離感を保ち境界線を引いておくことで、良好な家族関係を続けていくことができます。