2022.11.02

認知症の家族との関わり方、やってはいけないこと~前編~

2022.11.02

認知症の家族との関わり方、やってはいけないこと~前編~

川内潤:NPO法人となりのかいご代表理事

×

繁田雅弘:一般社団法人 栄樹庵 代表理事 。「SHIGETAハウスプロジェクト」代表 

医師・東京慈恵会医科大学 精神医学講座 教授・同大学附属病院 精神神経科 診察部長

あらすじ

安心して認知症になれる場所として地域に開かれた「SHIGETAハウス」の設立者であり認知症専門医でもある繁田雅弘先生と、となりのかいご代表の川内潤が対談しました。繁田先生の生家でもある「SHIGETAハウス」にお邪魔し、家族のお悩みとして多く耳にする問題にアドバイスをいただきました。まずは前編として、家族が認知症となったらどう関わっていくことが大切なのか、また介護にどんな選択肢があるかについてお伝えします。

■家族だからこその関わり

川内 本日はお忙しい中お時間を割いてくださりありがとうございます。繁田先生にお会いできてうれしいです。よろしくお願いいたします。

繁田 はい、よろしくお願いします。

川内 さっそくですが、よくある相談の話をさせてください。お父さんが明らかにおかしい、物忘れが多い、何度も同じ話をする、何か月もお風呂に入らない、心配になって病院で診てもらうよう伝えても頑として行かない、そんなところへ行くくらいなら死んだほうがマシと柱に捕まって行ってくれない。こんなとき先生ならどうアドバイスをされますか?

繁田 本人が行きたくないところへ無理に連れて行く必要はない、と思います。

川内 おっしゃる通りです、私もそう思います。

繁田 ただ、お風呂に入らない、周りはボケ扱いする、本人はボケ扱いされている感が強い、その状態だとかなり深い溝ができているんですかね。

川内 そうですよね。

繁田 その状況で受診を説得するにはもう力づくしかありません。ただ、それはもう人間のすることではなくなっている。私たちのすることではなくなっている。2015年にWHOも「認知症の人が本人の望まない受診をさせられたり、拘束をされたりすることが先進国でさえ行われている状態は非常に由々しきこと。一刻も早く解消しなければならない」と言ってるんですよね。

川内 そうなんですね。

繁田 でもやっぱり日本は特殊かな。そうやって家族の力を利用しながら国による支援を避けてきた体制にも問題があるかな。

川内 そういうことですね…。

繁田 そもそも日本は、公立の精神科病院をほとんど作らずに自宅隔離して、なんとなく民間に病院の運営を任せてきたっていうところがあります。精神障害の患者さんと認知症の患者さんの医療は実は共通するところがある。

川内 そうですよねぇ…。

繁田 ほんとはかなり違うんですけど、認知症も偏見が強いから。そうなっちゃうともう第三者が入るしかなくなっちゃうんじゃないかな?

川内 私もそう思うんです。それで私が「そもそもどうして連れて行くのですか?」「連れて行ってどうされるんですか?」と聞くと、「とにかく検査を受けさせるんだ。本人に認知症だと理解させるんだ」とおっしゃるんですけど…。

繁田 すでに認知症扱いしている、つまり自分では自分のことが分からない人として扱っているのに、認知症って理解させる? 不思議ですよね。なにもわからないからって、じゃあなんでわからないのにお母さん叱るのって。なにもわからない人のことで嘆いたり、車の運転をやめないって叱ってみたり、なにもわかんないって言っておきながら怒るって無理なことなんじゃないのかな。

川内 そうですよねぇ。

繁田 そこに矛盾なんですよ。認知症になったのなら認知症らしく振る舞いましょうってことになってしまうじゃないですか。下手に状況を理解しないほうがいいようなことになっちゃう。

川内 ちょっと恐ろしいけどそういう感じがします。

繁田 周囲が予想していない失敗をすると叱られますし。でもそれは全体から見たらごく一部です。ほとんどの認知症の人は幸せに暮らしている。私の外来に通っている人でも。だから映画とかテレビに出てくるような悲惨だったり過酷な状況の人たちはごく一部です。問題はそっちのごく一部。

繁田 家族として暮らせる人は、7〜8割くらいかそれ以上いるんじゃないかな。ほとんどの当事者は愚痴を言いながらも家族を頼るし、家族も文句を言いながらも守り、無駄遣いや損失覚悟で本人のやることを許容している人も結構おられますし。

川内 ええ、もちろん。

繁田 それは素敵なことだと思う。でも、その一部の話をあんまり強く論じると世の中の人がやっぱり認知症は大変だということになっちゃうんです。実際は、認知症の人の多くは幸せなんです。だけど、それまで不幸せだった人はダメなんですよ。

川内 そういうことですよね。

繁田 「認知症になっても幸せに暮らせるのか」といったテーマの講演会とかに呼ばれるじゃないですか。その時はじめに「認知症になっても幸せに暮らせますけど、家族の仲がすごく悪かったり、認知症になる前に不幸せな方がいらっしゃったとしたらそれは不幸せのままですからね」って言うとみなさん苦笑いされます(笑)。

川内 (笑)

繁田 認知症は幸せにするものではないので。だからといっても不幸にするものでもなくて、あなたたちの人生がちょっと不便になるだけですよっていうふうに皆さんが理解出来たらすごくいいですね。

川内 そうなんですよね。そこが上手く受け入れられないままに、本人よりも先に家族が困ってしまうというか…。

繁田 いや、本人も困ってる。

川内 あぁそうか。

繁田 でも本人は言えない、言える人は幸せ。家族を心配させないために1人で病院に入院したり、施設に入ったりしている人もいるからね。

川内 そうですか。

繁田 なので「あれ?」って思った時に、家族がその心配を本人にちゃんと伝えることですよ。「大丈夫?」って。「病院へ行っても行かなくてもいいけど、ちゃんと元気に幸せに暮らしてほしいから、そのために家族がなにかできることあるかな?」って。病院に行くのはその先の話。そういう気持ちがちゃんと伝わると、本人は「俺をボケ扱いすることが目的じゃなくて、俺が幸せに暮らすことを考えてくれている」と理解できる。ちゃんと伝えることですよね、家族が。家族なんだから。

川内 はい、ほんとにそうです。

繁田 先生と生徒でもない。面倒を見る人と見られる人の関係でもない。家族なので。

川内 前の段階からコミュニケーションを取っているのがすごく大事なんだけれど、どうしても腫れ物に触るというか…。これを伝えると父親や母親に引導を渡すことになるんじゃないか、と不安に感じている方が多いような気がするんですけど。そのあたり先生はどう思われますか?

繁田 でも多分それって、今までの家族の歴史がそうなっている。

川内 そういうことですよね。

繁田 子どもが結婚したいって言った時に親父に言えなくて、みんなで相談してやっとのことで伝えたとか。

川内 はいはい。

繁田 そんな家族では認知症になったら厳しいよ。だから認知症になるとその家族がどういう家族かわかるっていうことだよね。僕も人のことは言えないけれど(笑)

川内 ここの家族のパワーバランスってこういう感じだったんだろうなぁとなんとなくわかります。そういう家族関係という前提で、こちら側も支援しなければならないと。

繁田 綺麗事をいうのであれば、やっぱり伝えるっていうことですよね。あなたと一緒にこれからも家族として暮らしていきたい、そのためにできることはあるか。経済的な制約も介護の制約もあることをちゃんと伝えて、もっといえば認知症になる前から相談しておくということも大切。

認知症の家族との関わり方、やってはいけないこと~前編~対談風景

■知識ではなく、その人自身を見て考える

川内 ご相談の一つとしてあるのが、「認知症当事者の言うこともわかるけれど、こっちの苦労はどうなるんだよ」ということ。「待てないし失敗されたら困るし、間違っているのは親の方じゃないか」みたいな話を受けたのです。これはどうやって調和していったらいいんでしょう?

繁田 本人の辛いところとかしんどいところとか、自分の家族が苦しんでいるところに思いが向くかどうかですよ。もうそこは決まっているんです、家族関係の中で。

川内 うーん、そういうことですね。もともとの家族関係が如実に現れるといった時に、一部だとは思いますがこれは無理だなって思う瞬間があるわけですよ。

繁田 がんという病気はずいぶん治るようになったけれど、でもどうしても治せないがんもまだまだたくさんあります。

川内 ですね。

繁田 だから認知症も同じで、予後の悪い認知症の方はいらっしゃるんですよ。質の高い認知症医療と認知症ケアを提供することができたとしても。それはなにかっていったら、本人と家族の心理的な関係なんですよ。

川内 やっぱりそうですよね。

繁田 病気のスピードじゃなくて。

川内 それにも関わらず家で診てあげるのが正しいとか、もともと仲が悪かったのにこうあるべきとか、親戚がどうだとか。

繁田 だからそこは開放してあげたいですよね。

川内 私も「親戚のために介護やります?」とか「これ以上関係性が悪くなるまで本当にやりますか?」って何度もお伝えはしていますね。

繁田 それでいいじゃないですかね。賛成です。

認知症の家族との関わり方、やってはいけないこと~前編~対談風景

■選択肢はたくさんあるはず

繁田 僕は本人にときには「早いとこ家族と離れて、施設に入ったら?」って言います。「縁を切るのをそそのかしているのか」って言われますけど、ここが大事な選択肢だし、サービスを使う手もある。日本で一人暮らしの方は本当にたくさんいらっしゃって、そういう方たちは自分の人生を歩んでいくので、一人になったとしても、それはそれで使えるサービスはあるだろうから、そのほうがずっと心が楽になるんじゃないかと思うんだよね。

川内 私が行った調査の中で、認知症になったら一人にしておかないほうがいいだろうと思う家族が圧倒的に多いんです。意識調査の中でも6割くらいなんですよね。ということと、もともとの関係性で1年に一度会うか会わないかみたいな状況の中で、こっちで暮らそうよとか、在宅勤務になったから行くよみたいな話があって、そこでトラブルが起きるんです。これをどうしたらいいものなのかって思いながら今の話を聞いていました。

繁田 それはもう自分で考えていただくしかない。知識を深めるのではなくて頭を使って考えようってことです。一緒に暮らしたいのかそうじゃないのか、どうしたい?ってことですよね。長い間ずっと別に暮らしていた親子が一緒に暮らすときに、子供のライフスタイルを基準に考えることは危険ですね。何十年の間にできあがってきた自分のライフスタイルを変えることを強いられるわけですからね。

川内 はい、そうですよね。

繁田 ほとんどの家族は「先生どうしたらいい?」になっちゃうんですよ。「遠方に住む母の介護はどうしたらいいか」って聞くことをまず第一にすべきなんですね。僕は「お母さんが好きだったお菓子かなんか買って会いに行って親子で一緒にお茶でも飲んだら」って言うんですよ。「お母さんが教えてくれた料理を今日は私が作るから一緒に食べようって。」そもそも今まで、それすらしてなかっただろうって。だから年に一度でもお茶を飲んでみたら、なにが正しいかわかるかもしれない。話はそこからだよね。家族でなくなっていたのに、もう一度家族的なことを無理にはじめようとしても上手くはいかないと思う。

川内 そうなんですよね。いやぁ、そこが先生と共感できて私自身ホッとしました。

繁田 理想論かもしれないけれど、家族がもっている「こんな介護をしてあげたい」っていう考えと、本人の「こういう風に生きていきたい」っていう思いをすり合わせることができたらベストかな。例えば「医療ではこんなことができるけど、どうする? そうする?」という話を本人と家族とできたら一番いいんじゃないかと。

川内 単純に知識を深めるってことではないんですね。

■認知症の方に怒ってはいけない?

川内 認知症の勉強を一生懸命やってきて、怒っちゃいけないとか書いてあるじゃないですか。でも怒っちゃう人がいて、こういう人に先生はどうアドバイスをされますか?

繁田 昔は僕も怒っちゃいけないって言ってたけど、今は言わないです。「怒っちゃうよねぇ、そうだよねぇ、我慢できないよねぇ、だってあきらめきれないもんねえ、もうボケてもいいやとか思えないもんねえ」って。それを繰り返しているうちに、多くの家族が、「わかりました。もう少し頑張ってみます」みたいなことになって帰っていくんですよ、それでいいですよ。

川内 おっしゃる通りです。私もそうしてます。

繁田 「怒りたいですよね」っていうと、「そんなこと言われたのはじめてです」って。ただ「怒っちゃダメですよ!」と言うのは、専門職が家族の気持ちに寄り添えていないってことですよね。だったら本人の気持ちにもなれないだろうなって。だからやっぱり知識先行ですよね。想像力と思考力を失っている感じですよね。そんなにたくさん情報はいらなくて、もっといっぱい自分で考えていいですよって家族に言う。

川内 そういうことですよね。

繁田 それを伝えないといけないんですよ。しっかりしてる方に伝えると「わかりました。それでいいんですね」って言ってくれます。

川内 とある地域包括支援センターが「認知症っていうのはこういう病気なんです。ご家族はご理解ください」ってマニュアルを渡したことがありました。それでご家族は憤慨するんですよ。

繁田 それは、うちとは症状が違うって怒ったの?

川内 こんなマニュアルみたいなものを読みながら言われたくないと。通り一辺倒のことを説明されても、こっちはそれができなくて困ってるんだ、そんなものは知っているし十分勉強したと。

繁田 認知症テスト16点だったのを20点に上げるにはってことじゃなくて、ゴミを忘れずに捨てるいい方法ないの?って話じゃないですか。僕は時々言うんだけど、医学に逃げるなって話なんですよ。認知症ケアの理論に逃げるなってことなんですよ。大切なのは人生観と価値観ですね。

川内 それはまた重い言葉ですね。

繁田 そうです。

記事の後編はこちら「認知症の家族との関わり方、やってはいけないこと~後編~

 

ブログ一覧へ戻る

ラジオを聞く

この記事をシェア

  • facebook
  • twitter