2023.10.04

認知症の誤解からくるトラブル事例【前編】

2023.10.04

認知症の誤解からくるトラブル事例【前編】

コロナ禍が原因で、高齢者が自宅に閉じこもりがちな生活となり「認知症かもしれない」「コロナが5類となり久しぶりに実家に帰省して、親の変化に気づいた」といった相談の増加から、認知症への誤解が引き起こすNGな対応事例とそれを回避する5つの方法を【前編】と【後編】に分けてお伝えします。【前編】では、以下の3つについて解説します。

●物忘れはあるが「年相応の物忘れ」と考えてしまう
 親に対しても、予期せぬ変化や新しい事象に対して過剰に反応しないよう「正常性バイアス」が働き、「年相応の物忘れ」「たまたま調子が悪かった」と考えてしまうことがあります。せっかく見つけた変化をそのままにしておくと、外部支援を求める適切なタイミングを逃すこともあります。
「財布やキャッシュカードを無くす」「料理が作れなくなる」などのトラブルが起きてからでは、一つひとつの対応に追われるうちに時間と労力が奪われ、仕事との両立が困難になってしまいます。
 まずは、電話だけでも地域の高齢者向けよろず相談所である「地域包括支援センター」に親の変化を伝えておくことが重要です。地域包括支援センターによる普段の見守りから、親との関係性づくりを進めていけば、トラブルに家族だけで対応せずに済むだけでなく、適切な支援へつながる近道となります。

●認知症の進行防止だと、やみくもに話し掛ける
 認知症を進行させないための声かけは、発症している本人のストレスを発散しながら、時に適切な刺激を与えていくことが重要です。
例えば「隣が質屋で、景気が悪くなると行列ができていた」と、懐かしい話を繰り返し話す方には「何歳くらいの時ですか?」「買い戻す人もいるんでしょうか」など深堀して聞きながら、表情が曇ったら「隣が質屋さんで、景気が悪くなるとお客さんが増えるんですよね」と饒舌に話していた話題に戻します。こういった会話が一人ひとりの記憶に合わせたコミュニケーションです。
家族では「今朝食べたのはパンとご飯のどっち?」「今日は何の日?」と聞いてしまいます。直近のことを忘れてしまう短期記憶障害の方には、非常にストレスフルな質問です。家族も「なんで答えられないんだ!」とイライラします。認知症の人は怒りっぽくなると言われますが、私からすると怒らせるような対応をしているのです。
 まずは意識的に接触の頻度を下げて、外部の方(地域包括支援センター、ホームヘルパー、デイサービスなど)に声掛けを任せることが、適切なケアにつながります。

●とにかく病院を受診させる
 「まずは病院に行ってみよう」と声をかけても、頑なに拒否されてしまうことがあります。繰り返し声をかければ「絶対に行かない!」と感情的な衝突に発展します。病院受診のために、家族関係が崩壊しては元も子もありません。認知症かもしれないと不安を抱えている本人からしたら、認知症と診断されることに強い恐怖を感じるのは当然です。認知症の診断を焦るのではなく、介護サービスを利用しながら受診のタイミングを計りましょう。
「介護認定のために、医師の意見書が必要では?」といった質問もありますが、定期受診している整形外科や皮膚科の医師に依頼することもできます。病院嫌いな方でも、地域の高齢者向け出張健康診断に誘うなどの方法もあります。まずは地域包括支援センターに「かかりつけ医がいなくて、本人も受診しない場合はどうしたらいいのでしょうか」と相談してみてください。

 【後編】では残り2つの認知症への誤解が引き起こすトラブル事例とそれを回避する方法をお伝えします。