2023.10.18

認知症の誤解からくるトラブル事例【後編】

2023.10.18

認知症の誤解からくるトラブル事例【後編】

 コロナ禍が原因で、高齢者が自宅に閉じこもりがちな生活となり「認知症かもしれない」「コロナが5類となり久しぶりに実家に帰省して、親の変化に気づいた」といった相談の増加から、認知症への誤解が引き起こすNGな対応事例とそれを回避する5つ方法をお伝えする、残り2つを解説する【後編】です。

●道に迷うことが増えたので、外出させない
 「外に出かけて警察に迷惑かけるわけにはいかない」と、玄関にセンサーを設置する、夜間も玄関で寝るようにする、外鍵をする、など外出しないことに注力する方がいます。一方で、外出することを抑制すればさらにその欲求は強くなり、玄関先でケンカになったり、玄関でない場所から外に出るなど、さらなるトラブルにつながります。
 この時に課題として設定するべきは「一人で外出すること」ではなく「道に迷って帰って来られなくなること」です。外出して道に迷っても、フォローできる体制があれば問題ありません。ご近所や買い物先への可能な範囲での協力依頼、GPS機器の活用、認知症高齢者の見守りネットワークへの登録などで、十分なサポート体制の構築で対応できます。
外出することで、足の筋力が維持され、社会との接点が得られ、ストレスの発散ができれば、無料でデイサービスと同様の効果が得られているとも言えます。地域包括支援センターやケアマネジャーと相談しながら、認知症の本人が安心できる見守り体制を検討してみてください。

●デイサービスに送り出すため、予定を掲示して声掛けする
 日中だけ施設に通って、人との交流やリハビリ運動をしながら、健康管理や入浴もできるのがデイサービスです。自宅での認知症ケアの場面でもデイサービスが利用されていますが、行く直前になって「そんなところに行きたくない!」と強く拒否するなど、迎えに来た送迎車に乗ってもらうのに苦労するケースが多々あります。
また、忘れてしまわぬようカレンダーなどに書いて、繰り返し見てもらったり、1週間前から毎日電話をして「あと〇〇日後にデイサービスだね」と繰り返す方がいます。良かれと思って行った繰り返しの声かけで、不安が積み重なってしまうのです。これでは、デイサービスの送迎車に乗らないのは当然です。
 このような事態が予測される場合は、ケアマネジャーやデイサービス職員と作戦会議をしてみるのがよいでしょう。事前にデイサービスの説明をせず、送迎担当者が玄関先で「庭仕事を手伝ってくださる方を探しているのですが、ご協力いただけますか?」と誘い出し、庭仕事を1時間ほどしてご自宅に戻ります。次回は昼食まで、さらにその次は「汗を流していきませんか?」と入浴を勧める。このような段階を踏みながら、なじみの関係づくりを構築して、楽しく通える方法を試行錯誤することができます。まずはケアマネジャーに「送迎車に乗るとは思えないのですが…」と相談してみてください。

 私は、認知症の方が通うデイサービスで働いていたことがあります。そこで、様々な苦労を抱える家族とたくさん出会いました。その一つひとつを思い起こすと、認知症への誤解がトラブルになっていることがありました。家族として責任を持って支えなければ、という気持ちが強いほど、そのトラブルは増えていきます。互いの関係を良好に維持し、長生きを喜べるようになるためにも、周囲を頼っていくことが重要です。