2024.05.29
民間の介護保険に入るべきか?
2024.05.29
「介護保険」と呼ばれるものには、社会保険制度としての「公的介護保険」と、主に民間の保険会社が「保険商品」として販売している「介護保険」の2種類があります。今回は、公的介護保険の仕組みや、民間の介護保険に加入する上で注意すべきことなどをお伝えします。
●2つの介護保険の違い
公的介護保険制度とは、介護を必要とする高齢者の増加や核家族化の進行により、介護が必要になった方を社会全体で支える目的として2000年4月に施行されました。
40歳以上になると加入が義務付けられ、終身に渡って保険料を支払うこととなっています。会社員や公務員は給与や年金から天引きされ、自営業者は国民健康保険と合わせて納付しています。
これにより介護が必要になった場合、介護サービスを原則1割(一定以上の所得のある方は2~3割負担)の負担で利用することができます。
一方で、民間の介護保険には様々な種類があり、加入は任意となります。要介護状態になった場合、一時金や年金として現金で支給されることが特徴的です。
●民間介護保険に入るリスクとは
公的介護保険でのサービス利用の不足分や、介護にかかる経済的な負担を減らす目的として販売されていることが多い民間の介護保険ですが、現金が給付されることで生まれるリスクもあります。
公的介護保険でのサービスは、要介護者の自立支援を目的としています。要介護者にとってほどよい支援、やりすぎのないサービス量に調整されています。それが支える家族にとっては、サービスが足りていないと感じることもあるでしょう。そう感じた時に、民間の介護保険から給付されたお金を使ってサービスを増やそうと考えるかもしれません。
要介護者にとっての過度な支援はお勧めできません。まだ自身でできることを奪ってしまい、介護状態を推し進めてしまうためです。自宅での転倒を心配して、介護保険内で認められる以上のリフォームをしたことで、日常的にしていた足の上げ下げの機会を失い筋力が低下。外出先や家の中の何でもないところで転倒してしまう原因になってしまいます。
●お金の余裕が安心を生まない理由
いつ始まるのか分からないのが介護ゆえ、漠然と「お金があった方が安心」と考えてしまいがちですが、金銭的余裕が必ずしも良い介護に繋がるとは限りません。
民間の介護保険の給付金と雇用保険からの介護休業給付金があることで、公的な介護保険によるサービスは利用せず、会社を休んで家族介護に専念したとします。直接介護に関わることで、要介護者が必要以上に家族に依存するようになります。そうなると、支える側もイライラすることが増え、良好な家族関係が壊れてしまうことになります。
私のような介護の専門職でも、自身の家族を介護するのは大変難しいと言われています。家族として元気だったその人を知っているからこそ、間近で老いていく姿を直視するのは辛いものです。
こういった理由から、いくらお金に余裕があったとしても、過度にサービスを利用したり、直接介護に関わったりすることは結果的に要介護者の為にならないのです。
●民間介護保険に加入するなら
民間の介護保険に加入にリスクがあることも考えていただきたいのです。過剰に介護サービスにお金をかけてしまいそうであれば、あえて加入しないことも選択肢の一つです。ただし、介護が必要になっても旅行に行くためにトラベルヘルパーをお願いすることや、支える家族がリフレッシュを目的としてお金を使うイメージができるのであれば、支える側の余裕を確保することに繋がり、有効なお金の使い道となるかと思います。
私たちが触れている情報は「親孝行のためにも家族が介護をするべき」という暗黙の了解のもと発信されているものが殆どです。民間の介護保険に入ることで「お金が備えられていれば安心」となり、「本当の意味での親孝行とは何か?」を考える機会を失い、気づいた時には互いを傷つけあう介護に陥ってしまうかもしれません。改めて、民間の介護保険にどんな目的で入るのか、どういったお金の使い道が親孝行につながるのか考えて、選択肢の一つとして検討いただきたいところです。