2025.08.20

決して他人事ではない悲しい事件の結末

2025.08.20

決して他人事ではない悲しい事件の結末

 介護をきっかけとした痛ましく悲しいニュースは増え続けています。ただ、実際に家族介護に直面していないと、自分事としては考えにくいものです。今回は、「決して他人事ではない悲しい事件の結末」について、どうしたら防ぐことができるのか、そのために何を大切にすべきかをお伝えします。

●愛知県で起きた悲しい事件から見えること
 2025年5月、愛知県田原市で高齢の夫婦が殺害される事件がありました。殺人容疑で逮捕されたのは、同居していた16歳の孫でした。取り調べで「祖父母と両親の口論を見聞きするのが嫌だった」などと供述したそうです。
 こういったケースは、介護をきっかけに誰にでも起こり得るものではないでしょうか。例えば、同居する祖父の介護を祖母がひとりで担っていても、共働きの両親は介護を手伝えず、祖母の負担軽減を考えて両親(子ども夫婦)がデイサービスの利用を勧めても、祖父が嫌がり、祖母も必要ないと拒否。意見の食い違いから喧嘩が繰り返され、それを見聞きしている孫には大きなストレスになるという負のループが起こります。そのストレスが祖父母への怒りや恨みに変化することもあるでしょう。
 家族の「口論する声」は相当なストレスになります。そういった環境は、子どもたちが安心して暮らせる場とはなり得ません。介護が必要となった親を呼び寄せて同居しようと思っている場合、今回のような事件は決して他人事ではないと知った上で、呼び寄せが最善の選択なのかを改めて考えてほしいのです。

●老いていく親との関わり
 介護を理由とした同居をお勧めできないのは、親の老いていく姿をそばで見続けることが関係の悪化につながるためです。できないことが増えていく親の姿を受け止めるのは誰にとっても困難です。
 介護サービスを利用しない親と喧嘩になってしまうほどの説得は控えましょう。むしろ、説得される親の気持ちが頑なになってしまいます。そういった場合は、「親が介護サービスを利用したがらず、話し合いが平行線であること」を地域包括支援センターに伝え、第三者に介入してもらうと上手くいくこともあります。
 私自身の経験でも、最初から介護サービスを受け入れた方はほとんどいませんでした。対話の中でその人に寄り添った声がけや、気持ちよく足を運んでもらうための工夫が必要でした。ただし、介護サービス自体が必要ない場合や、親がまだひとりで問題なく生活できているのに、心配から利用してほしいと説得するケースもあります。たとえ不便やリスクがあっても、人と関わるより、ひとりでのんびり過ごしたいという方もいます。
 親にはいつまでも元気でいてほしいという気持ちは大切ですが、介護サービスはあくまでも「高齢者本人の自立を支援すること」が目的です。一旦冷静になり、本当に親にとって必要なサービスなのか、自分が安心したいだけなのかを見極める必要があります。

●一番に守るべきものは何か
 親の介護に直面したとき、家族として大切なのは「自分の心身の健康を自分でケアしていく」ことです。悲しい事件の背景には、誰にも相談せず、介護を家族だけで抱え込んだ結果、支える側の心身が限界に達したことが大きな要因となっています。愛知の事件のように、親の辛さはそばにいる他の家族にも大きく影響します。「自分自身の心身を平穏に保つこと」を優先することは、子どもの安心や安全を守る家庭環境づくりとなり、ひいてはヤングケアラーを生まないことにもつながります。まずは、家族介護に関わる方こそ、自分自身の心身の健康を最優先にしてください。