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 ある企業の個別相談で、「長男として、父とどうやって向き合えばいいのでしょう?」と悩む男性がいらっしゃいました。私は、「お父さんの趣味はなんでしたか?」と聞きました。すると、「父は仕事ばっかりの人間でしたから、趣味とかはないと思うんです」という答えが返ってきました。この男性同様、親の趣味を知らないというか方は少なくありません。私はさらに聞きました。
「でも、休みの日とかありましたよね。たまにかもしれないけど、その休みの日に、お父様はなにをされていましたか?」
「そういえば、父はどきどき釣りに行ってたみたいです」
「え、それって立派な趣味ですよね!」
「あっ。確かに、そうですね」
「じゃあ、一緒に釣りに行くというのはどうですか?」
「いや、そう言われても、父は急性硬膜下血腫で倒れて、もう手足が動かないんですよ。釣りなんてできないじゃないですか」
「いえ、そうじゃなくて、大事なのは、お父様にとって休日の釣りには、どんな趣味があったかということです。スポーツとしてたくさん魚を釣るのが好きだったのか。どっちがお父さんにとっての目的だったと思いますか?」
 私の問いかけに対して、その方ハッとした様子で、「父は・・・・・・水辺をゆっくり眺めて、ぼーっとしたかったんじゃないかと思います」と答えました。
「でしたら、一緒に川に行って、水辺を眺めたらいいんじゃないですか?それはご家族にしかできないとても大事なケアで、私たちプロにはできないことなんですよ」
 私がそう言うと、その方は何度もうなずき、静かに涙を流していました。
 私たちプロは、家族に成り代わることはできないし、一緒に思い出話をすることもできません。そういうことは家族にしかできないのです。
 私たちは、作業ならいくらでも代われます。ご家族の方よりも短時間に手早くオムツを替えられますし、認知症の方と楽しく関わることもできます。ですから、そういう作業の部分はできるだけ手放し、プロに任せていただいて、みなさんは子どもにしか、夫や妻にしかできないことをぜひ探してみてほしいと思います。